奇跡のドライブ

巨石群は、毎日通う幼稚園を通り過ぎたところにあった。
毎日眺めている道なのに、運転席からのフロントガラスからではなく、
後部座席横の窓から流れる景色を見ていると、まるで初めて来た場所のように新鮮だった。

ドライブに連れて行ってもらう幼児のように、私は心の中でとてもはしゃいでいた。

運転席ではない、後ろの座席に乗れたことがうれしくて!
自分が運転しなくても、目的地に連れて行ってもらえることがありがたくて!

当たり前と奇跡

あんなちゃんは、座席に座ったまま、広海君におっぱいをあげていた。
あんなちゃんは、聡史さんが車を運転してどこかに連れて行ってくれることを、
長年の習慣として当たり前だと思っているだろうな。

以前の私は、 助手席に座って地図も見ずに歌を歌ったり、寝ちゃったりするのが当たり前だった(恥)。

でも今の私には、
私以外の人間が運転する車にただで乗せてもらえるなんて、
奇跡のようにすっごいことに思えた。


そしてまた聡史さんやあんなちゃんにとっては、誰かを同乗させることも当たり前のことだろう。
でもひとりぼっちだった私には、
その親切がすごくありがたくて、ありがたくてたまらなかった。

涙がにじんだけど、同乗させてくれたことへの感謝の気持ちは、
感激した気持ちの大きさほどは伝えられなかった。
普通なら、「乗せてくれてありがとう」ですむことなのに、
私ったら感激して泣いていておおげさかしら、なんて思って。

まだ、自分の踏み出したシングルマザーという状況と、
今まで夫がいて、自分で何でも責任を取らなくてもすんでいた状況とのギャップで感じる私の感情を、 他人に表現できるほど、言葉を整理できていなかった。

ただわきあがってくる感情に、心が流されるままになっていた。
うつのときもしかり、今日の異常なほどの感謝の気持ちも、またしかり。

山道

入り口の駐車場そばに、鱒釣りの釣り堀があった。
それを見つけたカレンちゃんが、「魚を釣りたい」と騒ぎ出した。 太陽も、「鱒、釣りたい」と言い出した。

「じゃあ、山に登ってから行こうね、まだお昼じゃないから、あとでお魚を釣って、食べようね」
とカレンちゃんを説得し、巨石群に向けて出発した。


結構急な坂道で、舗装されている道だが、息が切れる。
道のそばを流れ落ちる小川で、光子とカレンちゃんが、泥団子を作り始めた。 太陽は手を汚したくないので、顔を斜めにして光子たちを眺めていたが、聡史さんのあとを追いかけて、先に行ってしまった。

お団子が、いくつも並ぶ。
いっこうにやめる気配がない。
もう行こうよとせかせると、光子はどろどろになった手で、泥団子を持っていくと言った。

私は近くの大きな葉っぱをちぎると、泥団子を包み、茎でしばりあげて、ブックバンドのように手で吊り下げられるようにした。 光子が見せびらかしたので、カレンちゃんも同じようにやってと、泥団子を私に差し出した。





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子どもの友達のママたちとうまくいかなかったストレスもあって、
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